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鳥取家庭裁判所 平成3年(家)364号 審判 1993年3月10日

申立人 甲野三郎

相手方 甲野二郎 外6名

被相続人 甲野太郎

主文

1  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

(1)  申立人甲野三郎は別紙遺産目録記載<31>の土地を取得する。

(2)  相手方甲野二郎は別紙遺産目録記載<24>ないし<29>の土地を取得する。

(3)  相手方乙山花子と相手方丙川桃子は別紙遺産目録記載<1>と<2>の土地を持分二分の一宛の共有で取得する。

(4)  相手方甲野梅子、同丁川松子及び同甲野月子は別紙遺産目録記載<3>ないし<23>及び<30>の土地建物を持分三分の一の共有で取得する。

2  相手方甲野二郎は、

(1)  申立人甲野三郎に対し、別紙遺産目録記載<31>の土地に対する相手方甲野二郎持分二分の一につき、鳥取地方法務局昭和48年7月24日受付第×××××号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(2)  相手方甲野梅子、同丁川松子及び同甲野月子に対し、別紙遺産目録記載<30>の土地の甲野太郎の持分につき、同法務局昭和47年6月7日受付第×××××号持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  相手方甲野二郎は、申立人甲野三郎に対し、1項(2)記載のとおり土地を取得した代償として、金3292万3200円を支払え。

4  相手方甲野梅子、同丁川松子及び同甲野月子は連帯して、申立人甲野三郎に対し、1項(4)のとおり土地を取得した代償として、金1515万2400円を支払え。

5  本件手続費用中、鑑定人○○○○に支給した鑑定料222万5830円については、申立人甲野三郎に35万6133円、相手方甲野二郎に60万3200円、同乙山花子と同丙川桃子に連帯して46万5198円、同甲野梅子、同丁川松子及び同甲野月子に連帯して80万1299円宛負担させることとし、その余の費用は各自の負担とする。

理由

一件記録に基づき検討すると、次のとおり認定、判断できる。

1  法定相続分

申立人と相手方からの身分関係は、別紙身分関係図記載のとおりである。被相続人死亡の約一か月後に妻桜子も死亡したので、相続人は五人の子だけであり、そのうち長男一郎は被相続人死亡の約三年前に三人の子(被相続人の孫)を残して死亡しているので代襲相続となり、更に、代襲相続人甲野一夫の死亡により、その母である相手方甲野月子(一郎の妻)が相続人となったものである。したがって、各自の法定相続分は別紙記載のとおりである。一郎の代襲相続人である相手方梅子、同松子及び同月子の三人(以下この三人を「相手方梅子ら」という)は一体としての分割を求めている。

2  被相続人の遺産

(1)  不動産

イ  別紙遺産目録記載の土地建物が遺産に属する不動産の全部である。

ロ  同目録記載<24>ないし<29>の土地(以下同目録記載の土地建物は○数字で表示する)については昭和48年2月21日付で、<30>の土地については昭和47年6月7日付で相手方二郎へ相続登記がなされ、<31>の土地については昭和48年7月24日付けで申立人三郎と相手方二郎共有の相続登記がなされているが、これらの土地につき全相続人間で遺産の一部分割協議が成立した事実は認められず、相手方二郎と申立人三郎とが遺産管理目的で相続登記をする旨相手方梅子らに説明して相続登記をしたものに過ぎないから、依然として分割対象遺産である。

相手方二郎は、審判手続へ移行した後、<24>ないし<29>の土地は遺産の一部分割協議により自己の単独所有に帰したものだと主張し始めたが、調停当初における同相手方の照会回答書の内容と矛盾した主張であって採用できない。

(2)  遺産である不動産の代償財産ないし果実

ハ 別紙遺産外の不動産目録記載a、bの土地(以下同目録記載の土地建物はアルファベットの小文字で表示する)は、相続開始後の昭和49年9月26日に相手方二郎名義へ相続登記され、更に○○省へ売却して所有権移転登記されているから、その売却代金約360万円が遺産であるa、b土地の代償財産であるが、これは<19>ないし<23>の建物の改修代金365万円の支払に充てられ、同建物に転化されている。cの土地は相続開始後の昭和53年8月22日に共同相続登記され、更に○○市へ寄付して所有権移転登記されているから、cの土地の代償財産はない。

ニ dの土地の持分も、相続開始後の昭和47年6月7日に相手方二郎名義に相続登記され、更に○○株式会社へ売却して所有権移転登記されているが、同土地は部落の共有地であり、売却代金が個人に入ったとする証拠はないから、dの土地の代償財産もない。

ホ e、f、gの建物は、相手方二郎が<24>ないし<29>の土地の土地を担保として借り入れた資金で建築した貸店舗等であり、その収益で右借入金を返済したものと推定されるから、同建物は遺産である<24>ないし<29>の土地の果実と見る余地がある。

しかし、相手方二郎以外の相手方及び申立人は右建物を遺産の果実として主張しない旨表明しているから、遺産から除外する。

これとの均衡上、相手方梅子らが相続開始以後<1>ないし<23>の遺産を占有し収益してきた使用料も遺産から除外する。

(3)  預貯金

ヘ 相手方梅子らは、被相続人の妻桜子死亡後、相手方二郎が被相続人の預貯金を全部管理してきたと主張するが、その存在と額を証する資料がない。相続開始前の昭和43年3月に○○市へ推定152万円(1m2単価約1万3000円)でh、iの土地が売却された事実があるので、同金額程度の預金があったと推測されるが、相手方二郎において、被相続人の孫12人に対し各10万円宛配分した事実及び昭和62年分までの遺産に対する固定資産税を全額支払ってきた事実に鑑みると、右売却代金は適切妥当な使途に充てられて残存していないと見るほかない。

3  遺産の相続開始時の時価及び分割時の時価

(1)  結局、遺産は別紙遺産目録記載の不動産だけであるところ、鑑定人○○○○作成の鑑定評価書及び鑑定補充意見書によれば、その相続開始時の時価及び分割時(現時点)の時価は同目録記載のとおりである。

(2)  相手方梅子らは、<29>ないし<29>と<31>の土地は、相続開始当時すでに土盛りして宅地化されていたと主張し、当時農地であったことを前提とした同鑑定評価書の評価額を争っている。しかし、右主張に副う○○○作成の証明書記載の宅地造成工事時期は、証明を求めた者が変わるたびに変転しており、同人が80歳の高齢である点を考慮すると、同人の記憶は曖昧なものといわざるを得ないし、相手方梅子らの右主張が出された時期も審判手続の終局間際であったことからすると、同相手方らの記憶も鮮明なものではないと見ざるを得ないのであり、結局、同相手方らの右主張は採用できない。

(3)  <19>ないし<23>の建物の相続開始時の時価につき、前記鑑定補充意見書は、相続開始時においても耐用年数をはるかに経過した相当価値の低いものとしているが、前記2項ハで述べたとおり、相続開始後間もないころに365万円をかけて改修し、遺産である土地の売却代金がその費用に充てられているので、相続開始時の時価を365万円と評価したものである。

4  特別受益

(1)  相手方梅子らは、相手方二郎が昭和25年5月6日に第三者から購入したj、k、lの土地建物の代金は、被相続人からの贈与であると主張する。右贈与金額についての主張はなく、これを認める証拠もないが、相手方二郎はその当時26歳に過ぎず、同土地建物の購入代金や支払方法を具体的に明らかにしないうえ、相手方二郎も第13回調停期日において、被相続人から購入代金の贈与を受けたことを認めた(担当家事審判官が交替した第14回調停期日で前言を翻してこれを否定した)経緯があるから、右土地建物は特別受益財産と見る余地がないわけではない。

(2)  しかし、相手方二郎は、被相続人の二男であり、昭和21年に復員し、昭和23年6月に結婚して被相続人と同居していたが、同年12月に長男一郎が復員し、昭和25年に相手方月子と結婚したため、被相続人宅に同居できない状況となり、同土地建物を購入して別居した事実が認められるから、被相続人が相手方二郎に対して右住居の購入資金を贈与したとすれば、それは、被相続人が復員の見込みのたたない長男の代わりに二男を跡継ぎに据えたところ、長男の復員という喜ぶべき結果が生じ、その反面、二男には出ていって貰わなければならない申し訳なさから出た贈与であるというほかないのであり、このような特別な事情が存在したのであるから、右贈与には特別受益持ち戻し免除の意思が含まれていたものと認めるのが相当である。

(3)  他には特別受益財産の主張も根拠もない。

5  寄与分

(1)  本件は改正民法の寄与分制度が適用される以前に相続が開始した事件であるが、民法改正前の判例に従い、寄与分を考慮して遺産分割をするのが相当である。

(2)  相手方梅子らの主張する寄与事実は、被代襲者である一郎及びその妻子(相手方梅子ら及び亡一夫)が、被相続人と同居して家業の農業を手伝い、農地の維持管理に寄与したこと、被相続人とその妻桜子の療養看護に努めたことであるところ、代襲相続人自身の寄与はもちろんのこと、被代襲者の寄与及びその妻の寄与も代襲相続人において援用することができると解すべきであるが、格別の事情のない限り、相続開始以前の寄与に限られるというべきである。

(3)  被相続人は昭和39年11月に脳溢血でたおれ、以後は殆ど寝たきりの状態であったが、相手方梅子らは、被相続人の看護には妻桜子が当たっていたと述べているのであるから、被相続人の看護に関しては一郎とその妻子の特別の寄与は認められない。また桜子は約3か月の入院で死亡したのであるから、右程度の期間の療養看護は同居親族の相互扶助の範囲であって特別の寄与とはいい難い。

(4)  そこで、被相続人の家業である農業への寄与貢献について検討する。

イ  被相続人は、田約9反と畑約1反3畝を所有し、稲作を中心とし副業として養蚕も営んでいたが、昭和43年頃には田畑の一部が道路用地に買収され、田は約7反半、畑は約5畝になった。被相続人と妻桜子は専ら農業と養蚕に従事してきた。

ロ  一郎は教員であり、昭和25年に相手方月子と婚姻して以後も被相続人と同居していたので、教員勤務の合間をぬって農業の手伝いをしてきた。月子も他に仕事を持たなかったので、農家に嫁いだ者として当然に農業に従事してきた。

ハ  申立人三郎と相手方二郎は昭和25年ころ以前に被相続人から独立して生計を立てており、農業を手伝うことはなかった。相手方花子は昭和28年に、同桃子は昭和35年にそれぞれ他へ嫁いだ。

ニ  昭和39年11月には被相続人が脳溢血で倒れ、妻桜子がその看病に当たったので、一郎と相手方月子が農業の中心的担い手となった。そして、一郎は昭和43年5月13日に急性白血病で死亡したので、相手方月子が長男一夫や相手方梅子、同松子の助けを受けて農業を継続してきたところ、昭和46年9月24日に被相続人が死亡し、その約一か月後に妻桜子も死亡した。

ホ  申立人の農業続計資料に基づく試算によると、昭和37年当時の被相続人の稲作粗利益は年間16万円弱であり、これと同程度の養蚕収入があったとしても年間所得は30数万円程度であったから、一郎の教員としての給与収入は家計の支えとして重要であったと推認できる。

(5)  右イないしホの事実によると、被相続人の長男亡一郎と相手方月子は、結婚して被相続人と同居した昭和25年以後、被相続人が病気で倒れた昭和39年までの14年間、被相続人の農業を手伝い、その後相続が開始した昭和46年までの7年間は、一郎とその妻子が農業を支えてきたものであり、一郎とその妻子の同居協力がなかったとすれば、農業の継続が不可能であっただけでなく、被相続人はその農地を維持したまま生活を立てるには子供ら全員から扶養を受けるほかなく、さもなくば農地を手放さざるを得なかったというべきであるから、一郎とその妻子の寄与は遺産である農地の維持に対する特別の寄与であって、その割合は相続開始時の遺産総額に対する20%と認めるのが相当である。

(6)  ちなみに、参与員○○○○(司法書士)、同○○○○(主婦)及び同○○○○(農業)の寄与割合についての意見は20%を下回らないというものであった。

(7)  申立人三郎は、直接的、具体的見聞に基づかずに一郎とその妻子らの家業への貢献を否定しているに過ぎず、また、農業統計資料の農業労働者の賃金を基にして一郎と相手方月子の寄与は1%程度に過ぎないとし、同居親族の相互扶助の範囲内であって特別の寄与に当たらないとか、被相続人の農業経営規模が縮小していたから、(農業の維持ではなく)農業の維持に貢献したことにならないなどと反論しているが、独自の論法であって採用することはできない。

6  具体的相続分と遺産に対する取得可能額

以上の認定判断を前提として具体的相続分を計算すると別表のとおり、申立人三郎、相手方二郎、同花子及び同桃子は各16%であり、相手方梅子らは、合わせて36%である。この割合で遺産の現在時価総額5億2816万円を按分すると各自の取得可能額は、申立人三郎、相手方二郎、同花子及び同桃子は各8450万5600円であり、相手方梅子らは合わせて1億9013万7600円である。

7  分割方法

(1)  相手方花子及び同桃子は<1>、<2>の田を両者共有で取得することを希望しており、この要求は他の当事者の要求と衝突しない。<1>、<2>の田の現在時価合計は1億1022万円であり、両者の取得可能額合計1億6901万1200円に足りない5879万1200円について、両者は相手方二郎に譲るとの意思を表明している。

(2)  相手方二郎は<24>ないし<29>の土地を先取りし、その地上にg、h、iの建物三棟を所有しているので、同土地を同相手方の取得とするほかなく、これは他の当事者の要求とも衝突しない。<24>ないし<29>の土地の現在時価は1億7622万円であるから、同相手方の取得可能額8450万5600円に同花子及び同桃子から譲り受けた5879万1200円を合計した1億4329万6800円との差額3292万3200円は過剰取得になるから、これは過小に取得する当事者へ金銭で支払わせることとする。

(3)  申立人三郎が相手方二郎と共有名義で先取りしている<31>の土地については、同相手方も申立人三郎に取得させることを承諾しており、他の当事者の要求とも衝突しない。

(4)  相手方梅子らは<3>ないし<23>の土地建物の取得を希望しており、相続開始後今日までの21年間これらを占有使用してきた事情をも考慮すると、相手方梅子らに<3>ないし<23>の土地建物を取得させるのが相当である。これらの現在時価合計2億0529万円と取得可能額1億9013万7600円との差額1515万2400円は過少に取得する申立人三郎に対し金銭で支払わせるのが相当である。

(5)  申立三郎は<3>ないし<7>の田と<11>の山林(甲野家先祖代々の基地がある)の取得を希望しているが、申立人は終戦以来東京で生活し同地に生活基盤を築き上げてきたものであるから、土地の取得については他の当事者に譲らなければならない。

8  手続費用

遺産の鑑定に要した222万5830円のうち122万5830円は申立人三郎が、残り100万円は相手方梅子らがそれぞれ予納した費用から支出したが、これは各自の遺産取得額で按分して負担させることとし、その余の費用については各自の負担とする。

9  よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小林克美)

(別紙)身分関係図<省略>

(別紙)遺産目録<省略>

(別紙)遺産外の不動産目録

a 鳥取市○字○×番2 宅地  98m263

b 同字×番3     宅地  49m229

c 同字×番25    田   63m2

d 同市○字○○×番2 原野  518m2

e 同市○×丁目×番地2、×番地4・家屋番号×番2

店舗、居宅・鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階167m289 二階167m289

f 同所×番地5、×番地3・家屋番号×番5

居宅、店舗・鉄骨木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階73m241 二階66m279

g 同所×番地6、×番地・家屋番号×番6

事務所、居宅・鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階235m289 二階235m289

h 同市○×丁目××番3 公衆用道路 834m2

(旧・同市○字○○○×番2畑)

i 同市○×丁目××番4 公衆用道路 337m2

(旧・同市○字○○○×番3田)

j 同市○○町×丁目×××番 宅地 178m261

k 同市○○町×丁目×××番地・家屋番号○○町×丁目×××番

居宅・木造杉皮葺二階建 床面積 一階31m240 二階16m252

l 同市○○町×丁目×××番地・家屋番号○○町×丁目×××番2

店舗・木造杉皮葺二階建 床面積 一階34m221 二階19m283

以上

(別表)

A:1億5142万9100円(相続開始時遺産総額)

B:5億2816万円(分割時遺産総額)

法定相続分

特別受益

寄与分

具体的相続分

取得可能額

取得遺産

過不足

甲野三郎

1/5

なし

なし

A×80/100×1/5=16/100A

B×16/100=8450万5600円

<31>

3643万円

-4807万5600円

甲野二郎

1/5

なし

なし

同上

同上

<24>~<29>

1億7622万円

+9171万4400円

-5879万1200円(※)

=+3292万3200円

乙山花子

1/5

なし

なし

同上

同上

<1>,<2>1億1022万円

-5879万1200円

甲野二郎へ譲渡(※)

丙川桃子

1/5

なし

なし

同上

同上

甲野梅子

丁川松子

甲野月子

(1/15

1/15

1/15)1/5

なし

20/100

A×(80/100×1/5+20/100)=36/100A

B×36/100=1億9013万7600円

<3>~<23>,<30>

2億0529万円

+1515万2400円

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